ドルの為替差損益は、1つの取引だけを見ても計算できません。持っているドル全体の平均取得レートを、ドルが増減するたびに積み上げていくためです。記録が1件抜けたり、日付を取り違えたりすると、その後のすべての計算がずれます。
この記事では、記録しておくべき取引と、記録するときに間違えやすい点をまとめます。
記録しておくべき取引
ドルの残高と平均取得レートに影響するのは、ドルが増える取引と減る取引です。
| 取引 | ドルの増減 | 記録しておく値 |
|---|---|---|
| 円をドルに両替する | 増える | 日付、支払った円の額、受け取ったドルの額 |
| 株を売ってドルを受け取る | 増える | 日付、実際に受け取ったドルの額 |
| 配当・分配金をドルで受け取る | 増える | 日付、実際に入金されたドルの額 |
| 利息をドルで受け取る | 増える | 日付、受け取ったドルの額 |
| ドルで株を買う | 減る | 日付、実際に支払ったドルの額 |
| ドルを円に両替する | 減る | 日付、渡したドルの額、受け取った円の額 |
所得税基本通達57の3-2の注書き4は、円で外国通貨を購入し直ちに資産を取得する場合は、実際に支払った円の額をその資産の円換算額とすることができるとしています。円で支払う円貨決済の売買はドルを持つ期間が無く、株式分割・併合(端数分を現金で受け取る場合を除く)はドルの受け払いが無いため、どちらもドルの残高の計算には含めません(「米国株の為替差益に税金がかかるのはどんなとき?」)。
間違えやすい点
1. 株の売買とドルの増減の向きが逆になる
株を買うとドルは減り、株を売るとドルは増えます。株の売買の向きとドルの増減が逆になるため、取り違えやすいところです。ドルの為替差損益が実現するのは、ドルが減る取引(株の買付・円への両替)のときです。ドルが増える取引(両替・売却・配当・利息の受け取り)の時点では、手元のドルそのものの為替差損益は実現しません。ただし、株を売ったときには、株の売買損益(株を持っていた間の為替の動きを含みます)が別に実現し、株式の譲渡所得として課税の対象になります(国税庁の質疑応答事例「外貨建取引による株式の譲渡による所得」)。なお、配当や利息そのものには、それぞれ配当所得・利子所得としての課税があります(国税庁 No.1330・No.1310)。
2. 配当や利息も、ドルの取得として数える
配当や利息をドルで受け取ると、手元のドルが増えます。これを記録しないと、手元のドルより記録上のドルが少なくなり、その後に株を買ったときの計算が合わなくなります。
3. 日付をそろえる
株の売買には、売買が成立した約定日と、株とお金が受け渡される受渡日があります。所得税基本通達57の3-2は、外貨建取引を円に換算する日を「その取引を計上すべき日」としています。
株の譲渡所得の収入の時期については、所得税基本通達36-12が、原則として資産の引渡しがあった日(株では受渡日にあたります)によるとし、納税者の選択により契約の効力発生の日(約定日にあたります)によって申告することも認めるとしています。
一方、ドルの取引を円に換算する日(ドルの為替差損益の計算でどちらの日付を使うか)を、株の譲渡と同じ考え方で決めてよいかについては、所得税基本通達36-12は触れていません(36-12は山林所得・譲渡所得の収入の時期についての通達です)。どちらの日付で記録するかで、取引の順番や円に換算するときの為替レートが変わることがあるため、記録の考え方を一貫させるとともに、判断に迷う場合は税理士等の専門家にご確認ください。TaxelPort では、取引日を受渡日と約定日のどちらにするかを選べるようにしています。
4. 同じ日の取引の順番
同じ日にドルが増える取引と減る取引がある場合、どちらを先に処理するかで、平均取得レートと為替差損益が数円変わることがあります。明細から実際の順番が分からないことも多いですが、この記事で取り上げた通達や国税庁の事例は、同じ日の取引の順番には触れていません。実務上は、処理の順番の決まりを1つに決めて、毎回同じ順番で計算することで、計算をやり直しても結果が変わらないようにします。
5. 過去の取引を直したら、その後をすべて計算し直す
平均取得レートは前の取引から積み上げて計算するため、過去の取引を1件追加・修正すると、その日以降のすべての取引の為替差損益が変わります。表計算ソフトで管理している場合は、修正した行より後の計算が更新されているかを確かめてください。
6. 明細を保存しておく
証券会社の明細は、照会できる期間に限りがあることがあります。照会できる期間は証券会社や明細の種類によって異なるため、お使いの証券会社の案内でご確認ください。計算の根拠を後から確かめられるよう、毎年保存しておくと安心です。
まとめ
- ドルが増える取引(両替・売却・配当・利息)と減る取引(買付・円への両替)を、すべて日付順に記録します
- 株の売買の向きとドルの増減は逆です
- 日付の基準と、同じ日の取引の順番は、1つに決めて続けます
- 過去の取引を直したら、その後の計算をすべてやり直します
TaxelPort は、これらの取引を記録すると、日付順に並べてドルの平均取得レートと為替差損益を計算し、過去の取引を直したときもその日以降を自動で計算し直します。
出典
為替差損益の計算を自動化する
TaxelPort は、取引を記録するだけで、ドルの平均取得レートと為替差損益を移動平均法で自動計算し、 確定申告に書く3つの金額にまとめます。