ドルの為替差損益は「使ったときのレート」と「そのドルを取得したときのレート」の差から計算します。ドルを1回だけ用意したのなら取得レートは1つですが、円からドルへの両替を何回かに分けていると、使ったドルがどのレートで取得したものかを決めなければなりません。
この記事では、国税庁の質疑応答事例が示している計算の方法を、具体的な取引で確かめます。
取得レートを平均で決める理由
ドルは、いつ取得した分かを区別できません。1月に150円で替えた1,000ドルと、5月に140円で替えた1,000ドルが同じ口座にあるとき、8月に使った1,000ドルがどちらの分かは決められません。そこで、持っているドルの取得レートを平均して扱います。
国税庁の質疑応答事例が示す方法
国税庁の質疑応答事例では、外貨預金を2回に分けて預け入れ、その外貨で建物を購入した例について、所得税法施行令118条1項(有価証券の取得費の計算)の規定に準じて計算するのが相当とされています(国税庁「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して貸付用の建物を購入した場合の為替差損益の取扱い」)。
施行令118条1項は、平均を取る期間を「最初に取得した時(その後すでに手放している場合は、直前に手放した時)から、今回手放す時まで」と定めています。つまり、手放すたびに、前回手放したときに残っていた分と、その後に取得した分をまとめて平均する方法です。
条文では「総平均法に準ずる方法」と呼ばれていますが、平均する期間は1年ではありません。前回の残りを同じ単価で引き継ぎ、新しく取得した分を加えて平均し直すので、計算の結果は、取得のたびに平均を更新する移動平均法と同じになります。
計算に使う取引
年の初めにドルを持っていない人が、1年間に次の取引をしたとします。
| 日付 | 取引 | ドル | レート |
|---|---|---|---|
| 1月10日 | 円をドルに替える | +1,000ドル | 150円 |
| 3月10日 | ドルで株を買う | −600ドル | 156円 |
| 5月10日 | 円をドルに替える | +1,000ドル | 140円 |
| 8月10日 | ドルで株を買う | −1,000ドル | 146円 |
| 11月10日 | ドルを円に戻す | −200ドル | 152円 |
施行令118条1項の考え方で計算する
ドルを使う(手放す)たびに、前回使ったとき以降の分で平均します。
3月10日(1回目):最初に取得した1月10日からの分は、1,000ドル(150円)だけです。平均は150円で、為替差損益は(156 − 150)× 600 = +3,600円。残りは400ドル(1ドル150円)です。
8月10日(2回目):前回(3月10日)に残っていた400ドル(150円)と、その後5月10日に取得した1,000ドル(140円)をまとめて平均します。
(400 × 150 + 1,000 × 140)÷(400 + 1,000)= 200,000 ÷ 1,400 = 142.857…円
為替差損益は(146 − 142.857…)× 1,000 = +3,143円。残りは400ドル(142.857…円)です。
11月10日(3回目):前回(8月10日)以降に取得したドルは無いので、平均は142.857…円のままです。為替差損益は(152 − 142.857…)× 200 = +1,829円。
この年の為替差損益は、3,600 + 3,143 + 1,829 = 8,572円 です。
移動平均法で計算する
移動平均法では、ドルを取得するたびに平均取得レートを計算し直し、ドルを使ったときはその時点の平均取得レートとの差を為替差損益にします。
| 日付 | 取引 | ドル残高 | 平均取得レート | 為替差損益 |
|---|---|---|---|---|
| 1月10日 | +1,000ドル(150円) | 1,000ドル | 150.00円 | ― |
| 3月10日 | −600ドル(156円) | 400ドル | 150.00円 | +3,600円 |
| 5月10日 | +1,000ドル(140円) | 1,400ドル | 142.857…円 | ― |
| 8月10日 | −1,000ドル(146円) | 400ドル | 142.857…円 | +3,143円 |
| 11月10日 | −200ドル(152円) | 200ドル | 142.857…円 | +1,829円 |
合計は 8,572円 で、上の計算と一致します。平均をいつ計算し直すか(取得のたびか、使うたびか)が違うだけで、使ったときに当てはめる平均取得レートは同じになるためです。
1年分をまとめて平均した場合
参考に、その年に取得したドルを1年分まとめて平均する方法でも計算してみます。施行令105条1項1号の「総平均法」と同じ形で、こちらは事業所得の計算で、年末に持っている有価証券を評価するための方法として定められています。
年間の平均取得レートは(1,000 × 150 + 1,000 × 140)÷ 2,000 = 145円。使ったドルの円換算額は 600 × 156 + 1,000 × 146 + 200 × 152 = 270,000円 なので、為替差損益は 270,000 − 145 × 1,800 = 9,000円 になります。
3月10日に使ったドルにも、5月に140円で替えたドルを含めた平均(145円)を当てはめるため、施行令118条1項の考え方とは金額が変わります。ドルの為替差損益にこの1年単位の平均を使ってよいとする公的な資料は、確認できませんでした。
まとめ
- ドルを何回かに分けて用意した場合、使ったドルの取得レートは平均で決めます
- 国税庁の質疑応答事例は、施行令118条1項に準じた計算を示しています。手放すたびに、前回以降の分で平均する方法で、結果は移動平均法と同じです
- 1年分をまとめて平均する方法とは金額が変わります
TaxelPort は、取引を記録すると、移動平均法で取引ごとの為替差損益を計算します。ご自身の申告にどの方法を使うかは、税理士等の専門家または所轄の税務署にご確認ください。計算の考え方は「為替差損益とは」でも説明しています。
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